世界でいちばん美しい君たちへ、感想文をしたためる


ミュージカル『世界でいちばん美しい~鎌倉物語~』、全19公演完走おめでとうございました!

千穐楽から随分経ってしまいましたが、東京公演&大阪公演まるっとまとめて感想文をしたためたいと思います。

1点あらかじめお伝えしておきたいのですが、このライトなテンションに反して、このエントリ、実はけっこう長いです。

文字数にしてなんと2万字弱。自分でも正気か?って思います。それでもアップしちゃってますけどね。

と、まあそんな感じなので。

お読みいただいたあとは、ぜひとも目に優しい行動をしていただければと思います。目薬さすとか、ブルーベリー食べるとか。

それでは感想文エントリ、これよりスタートです。

 

 

 

 

【キャラクター・役者さんについて】

トオル&椿くん

トオルは、とにかく等身大に成長していく印象。

元気な小学生が、成長や挫折とともに落ち着いていって、等身大の大人になっていくまでの変遷をなめらかにたどるキャラクターだなと思いました。

だけど、やっぱり物語の主軸、かつ原作では大部分において語りを務めるキャラクターなだけあって、運動量とセリフ量がすごい。劇中劇の主演も務めていているから、出ないシーン、喋りも歌いもしないシーンはほぼなし。色々な面で、椿くんのエネルギーとスキルのすごさを痛感しました。

 

◎せったクン&横原くん

せったクンは何もかもがトオルと正反対でしたね。

等身大に成長するというよりも、ずっとせったクンはせったクン。キャスティングで横原くんに白羽の矢が立つの、よく分かる…!って改めて思いました。

そして、横原くんの声が本当に良い。

せったクンの声とか喋り方って、下手したら棒読み感が出たり頑張ってる感が出たりしちゃいそうですけど、横原くんの声には全くそれがなかったです。

「ひゃ〜!」とかもちゃんと感情の昂りのMAXのところまで音が当たってるような感じだったし、のんびりした声の中にもちゃんと感情の波が見えたような気がしました。

歌と同じく、セリフにもしっくりくる音程みたいなものが存在すると思うんですけど、横原くんはたぶん、それを掴むのがすごくうまい。歌とセリフの温度差も全くなくて、まさにcv.横原悠毅の雪駄文彦という感じでした。ひいき目なしに、彼がせったクンで本当に良かった。心からそう思います。

 

◎津々見+様々なキャラクターたち&原田さん

原田さんはシンプルに声量と歌唱力がすごかった。それでいて、おばあちゃんから津々見勘太郎まで、様々なキャラクターを見事に演じ分けられていて脱帽。ミュージカルってこうだよなあ〜!ってワクワクするような素敵なお声と演技でした。ふつふつと盛り上がるような感じとか、歌に合わせてクスッと笑えるような小ネタをぶっ込んでくる感じとか、私がミュージカルを好きな理由を原田さんには再確認させてもらったような気がします。機会があればぜひ、また別の舞台でもお見かけしたいです。

 

◎北島先生&蒼乃さん

澄んだお声とふわっと場が和らぐような安心する空気感が素敵でした。せったクンのレッスンを唯一引き受けてくれて、せったクンの才能を伸ばそうとしてくれた優しい先生のイメージそのままでしたね。劇中劇ではノリノリで女神役をやられていたのも、可愛らしくて大好きです。

 

◎コウミ(+沢口さん)&柳さん

柳さんはビジュアルを拝見した時、コウミそのままだなと思ったんですが、実際に足を運んでもなお、そのイメージは崩れませんでした。本当にコウミが生きてた。津々見が評する「もっと無口で引っ込み思案で可憐な女だった!」っていう評価にもちゃんと当てはまっていて、せったクンに出会うところからだけじゃない、もっと前の部分からのコウミもしっかりと背景に見えたのが本当に嬉しかったです。

「小さいけど素敵な声なんだよ」

せったクンのその言葉を本当にしてしまうような、芯がしっかりとありながらも澄んでいるお声が素敵でした。

あと、沢口さんも演じていらっしゃいましたね。トオルに向けたお手紙の歌、可愛かったなあ。

 

◎加瀬さん(マスター)&ブラザートムさん

マスターは原作を読んだ時点ではもう少し怖そうなイメージだったんですけど、ブラザートムさんの演じるマスターは、見た目に反して人柄はまんまるなとっても可愛いおじさんでした。アドリブかなっていうところもたくさんあって、マスターが絡むシーンは基本的にオアシスというか、感情のお休みどころになっているような気がしましたね。

公演日後半になるにつれてどんどん自由になっていっていくのも、微笑ましかったです。実際に見たのもレポで見かけたのも、本当に面白いのが多かった。特にセーシューのところは、ジワジワくるようなのが多かったような気がしますね。

でも、雰囲気を壊さない程度の自由、実はすごく難しい塩梅だと思うので、その難しい塩梅を攻めながらオアシスで居続けてくれたマスターには感謝しかないです。ありがとうマスター〜!

 

 

 

 

【ストーリー、劇中のことについて】

※10/29昼、11/5昼、11/12昼夜の公演をまとめた内容です。

※★は曲名。こうめいさんの曲目リストツイートを参照させていただきました。

場面はざっくりとセリフなどの始まりから曲終わりまでで区切っているつもりですが、ちょっと違うところもあるかもしれないです。そのあたりはなんとなくの雰囲気で読んでいただければ!

 

 

★追憶の16 beat(津々見)

オルゴールの『世界でいちばん美しい』&開演まもなくのアナウンスを合図に、杖をついた黒服のおじいさんが舞台へ登場。ピアノに少しよりかかった状態で『追憶の16 beat』を歌う。

『追憶の16 beat』のイントロで暗転してスタートなんですけど、私はいつもそこで、あえて目をつぶっていました。ここのピアノとチェロの音、本当に良いんですよ。スーッと物語に引き込んでくれるような感じで。冒頭部分ということもあって、とにかくここは絶対に取りこぼしたくないと毎公演思っていました。おかけで、大千穐楽から1ヶ月近く経った今でも、まだこの曲はそれなりに口ずさめます。

 

この場面は、1回目の観劇で双眼鏡越しにたまたま津々見と目が合ってしまったのが少しトラウマです。スタンバイ中の津々見、びっくりするくらい眼光鋭いんですよ。あれに射抜かれると思わず喉がヒュッてなります。ほんとにこわかった(原田さんすごいね)。

あと、「幼なじみの2人がいた 双子のような2人だった」のところで小学生のせったクンとトオルが出てくるんですけど、津々見が上手に視線を向けるとトオル、下手に視線を向けるとせったクンが動き出すっていう演出がゲームのキャラクター選択みたいな感じで可愛かったです。

 

 

★欲しいのはエレキング

「僕はせったクンのこの顔を見るとなんだか可哀想になってしまう。そうだ、その顔だあ!」のところ、せったクンが口をすぼめてゆっくり首を傾けていくのと、トオルがお小遣いもらってることに対して「ひゃ〜!いいなあ〜!」ってはしゃぐのが可愛くて、毎公演頭を抱えていました。トオルがせったクンに甘くなっちゃうワケをちゃんと証明してくれる可愛さ、いい薬です。

あと、『欲しいのはエレキング』イントロの2人がかしわばに向かうところ、容姿や喋り方はもちろん違うんだけど、同じような動きをしていても全然違うふうに見えるのがすごいなと思いましたね。トオルはせったクンを誘ったり、「しょうがないなあ」って感じで面倒見たりする立場なので、重心低めで速く多く動く。一方、トオルについて行く立場のせったクンは、姿勢よくゆっくりもったり動く。

けんけんぱのところなんかはけっこう如実に違いが出てたように思います。

トオルは動きが大きくてしっかり足音がするのに、せったクンは動きが小さくてほとんど音がしない。それでも2人が噛み合ってるのがすごいなと思ったし、その対比がとても可愛らしいなと思いました。

 

かしわばのところは、望遠鏡持ちながら「覗くとこがちょっとのーびる でもこんなの買ったら今月のお小遣い これでおっしまい」のトオルがちょっと肩すくめてるのが好きでしたね。

「おっしまい」のところは東京の途中から歌ではなくセリフっぽい感じに改変されましたけど、私は改変後の方が好きでした。ガキンチョ感があって。

さあ、残りのエレキングはバババッと一言感想いきますね。

「僕が欲しいのは…」⟵せったクンの声質が大変にバブくてGood!

ウルトラセブンのブロマイド1枚1枚…」⟵おばあちゃん声量すごいし音程正確率すごいんよ…

キングギドラでもいいかも」⟵声のトーンだけでミリしらだし、思いつきで言ってるんだろうなって分かるのすごくない?

キングギドラゴジラに出てくるやつ」

からの、両手上げてゴジラの真似して歩くところ。ここは、せったクンの方が手高くあげてる(重心が高い)からトオルよりも縦長フォルムになってたのが可愛かった。 

そのあとの「ウルトラセブンじゃない〜!(スーパーマンみたいな振りするトオル)」で、バァンと着地するところは、お稽古の映像にもあったので、本物だ!ってなりました。そして、回りながらスーパーマンのポーズするトオルが全く体勢崩れないのがすごいなと。体幹がとにかく強い。さすがさすがの椿くんでした。

そういえば、公演終わったらすぐお稽古の映像消えちゃいましたね…しばらくは残るもんだと思ってたので、今ものすごくメソメソしてます…

 

 

★おつり事件

「おばあさん、2枚ください!」

「はいよ、1枚5円で10円ね」⟵空で電卓はじくおばあちゃん好き
「これでお願いします」

「100円だから、はい、90円」

「わ〜!なんだかお金が増えたみたいだ!」⟵トオルくん、いい金銭感覚だよ

対するせったクンは1000円。

「え、せったクン1000円もらったの?!」⟵ここに限らずだけど、小学生のトオルの「え」はほとんど「へえっ(裏声)?!」って感じで可愛かった

「おつりあるかしらねえ」⟵おばあちゃんちょっと嫌な感じ…

で、このあとのおつりもらったせったクン、財布を脇に挟んで、両手いっぱいに小銭抱えながらぽてぽて歩くのがほんとに可愛かった…保護です…

そして、トオルがおつりが足りないことに気づいて『おつり事件』がスタート。

この曲はとにかく「頭がクラクラ」の両手で頭抱えながらグイーンってするトオルのフリが好きすぎました。こんな表現力エグい小2おってええんか…

イントロが、少年たちの「闇を突き抜けて」みたいな不安感を煽るような音運びなのも良かった。懐疑的って言葉を音に表したらこうなるのか!って納得できる感じ。せったクンの「僕わかん、ない」とか、トオルの「おつりは990円、だよ」でタンゴっぽくなるのも、懐疑的音運びの一環って感じがして好きでしたね。

あと、シンプルに、せったくんの「どうしよう」と「えー!」って声あげるところが好きでした。ちゃんとせったクンなんだけど、ゴリゴリに横原くんのバカデカ声です!っていうトーンで、みみち(耳が幸せ)がすぎる。毎公演たまらなかったですね。

 

 

★欲しいのはエレキング(リプリーズ)

「欲しいのはエレキング♪」で1枚ずつカードをめくっていくところ、エレキングのカードが出なかったせったクンの「な、に、これ」の体育座り、可愛すぎましたよね…これみんな好きだったでしょ…

エレキング出たー!」のトオルと、ユニゾンの「欲しいのは〜エレキング♪」でカード掲げるせったクンは、なんか、めちゃめちゃ可愛いプラス、普段のよこつばじゃ絶対しない表情だなと思ってました。特にせったクンはそう。あれは紛れもなく、横原くんの普段は開けてくれない引き出しから出た演技だなと思います。

 

 

 

★いいこと過ぎて大変なこと

この曲は2人の姿が本当に微笑ましかったですね。せったクンが初めてピアノに触れたシーンでもあるので、ピュアなキラキラが伝わってくる曲になっていたなと思いました。

3回見るとその曲が弾けてしまうというせったクンの才能が開花したシーンは、トオルが指で回数を示しながら3回曲を弾いて、それを後ろでせったクンがじぃーっと見ている構図。その時のせったクン、両手の指を合わせながらちょっとだけ手を動かしていたのが、天才の入口な感じがしてすごく好きでした。

そういえば、東京後半(私が観たのは11/5昼だったけど、もう少し前から変わってたのかな?)から、トオルの「シラノ・ド・ベルジュラック」の弾き方が「ほんとはもっとテンポよく弾かないといけない」にかかるようにたどたどしいテンポでの演奏に改変されていましたよね。それもトオルとせったクンの対比をするためのスパイスになっている感じがして最高でした。

 

『いいことすぎて大変なこと』の歌は、トオルの表情がコロコロ変わっていくのがとにかく可愛かった。曲の前後も含めたら、このシーンだけでトオルの喜怒哀楽全部見れたんじゃないんですかね。

せったクンが弾けてしまったことに対して憤ったり、キラッキラの笑顔で楽譜の読み方を教えたり、せったクンに「わかんない」と言われてシュンとしたり。かと思えば、せったクンの「けどもっと弾こう」でまた笑顔になったり。それに伴って、どんどん曲自体もジャジーで、ウキウキした感じに盛りあがっていく。この曲を連弾することで、せったクンの気持ちも盛り上がっているというのが分かるのも、良いなあと思いました。

 

ついでに、番外編として憎いな〜と思った演出についても触れさせてください。

シラノ・ド・ベルジュラック」をアレンジを加えながら弾き続けるせったクンと、せったクンに声掛けしながらもピアノ以外の生活を送るトオルの対比がすごく良かったです。

せったクンが普通の「シラノ・ド・ベルジュラック」を弾いている時は「僕達もう4年生なんだから」、変奏曲を弾くようになってからは「僕達もう5年生なんだから」というように、トオルのセリフとせったクンのピアノのスキルが連動してるのが良すぎて憎い。

周りの人たちはごく普通の日常を過ごしていて、せったクンはその間にメキメキと才能を開花させている。それを同じ時間軸として、視覚的にも聴覚的にも捉えることができるのが素敵だなと思いました。

あと、これは解釈とかそういう話じゃないのかもしれないんですけど、せったクンが沢口さんがトオルに話しかけたところで「シラノ・ド・ベルジュラック」の演奏を止めてしまうところが気になりました。

せったクン、沢口さんのこと好きだったのかなあ…

沢口さんとトオルがお互いのことを好きだと分かったから、初恋の曲である「シラノ・ド・ベルジュラック」の演奏を止めたのかもしれない。せったクンの初恋が破れる、みたいな意味合いを含んでるようにも見えるんですよね、ここ。

のちのち出てくる「僕達はそういう運命なんですよ」のトオルの言葉が、もしかしたらこのせったクンの行動にもかかっているのかなと思ったりしました。

 

 

★もう一度会えるから

トオルの初恋と、思いを伝えられないままでの別れのシーン。

沢口さんと線路を渡るところの「新世界より」とそれに合わせた照明での線路の演出、素敵でしたね。

『もう一度会えるから』は、もしかしたら劇中でいちばん好きだった曲かもしれないです。

毎回、劇中いちばん最初の涙腺崩壊ポイントになっていました。

文字にしちゃうと全然伝わらないんですけど、沢口さんのお手紙の直後、流れるような3音+1音の丁寧な伸ばしというリズムが音を変えながら繰り返されるところが、波の音みたいで本当に綺麗だったんですよね。

その綺麗なイントロのメロディーに触発されるかのように、トオルもせったクンも独白をし始める。

「感情(喜怒哀楽)がピークになった時に歌がくる」

「秘密を持ってる者は歌う」

横原くんがブログで脚本家さんに教わったと話していたこれらのことが、このシーンにはギュッと詰まっているなと思いました。

あと、トオルはせったクンから離れたところで音だけを聴いて歌うんですけど、せったクンはトオルの元まで行って、トオルの目を真っ直ぐに見つめながら歌うんですよね。その対比も良かったです。

せったクンの歌に心動かされて、最後は2人見つめあって歌うところも、『いいことすぎて大変なこと』のシーンみたいに気持ちの昂りとともに連弾しちゃうところも好きでした。

でも、2人で弾いているところって、曲中ではいちばん静かな部分なんですよね。静かな部分を2人で弾いたあと、サビ部分のアレンジみたいなメロディーでラストに向けてボルテージを上げていくのは、せったクン1人だけ。

もしも本当にせったクンが沢口さんのことを好きだったのなら、この音運びは、せったクンが彼女への気持ちを消化するのに必要なものだったのかなと思います。真偽の程は分からないですが。

この曲は、とにかくクリスマスのイルミネーションみたいなキラキラした印象が私の中に強く刻まれています。そういう美しさの曲が小学生時代のシーンで入ってくるってすごく夢がありますよね。また聴きたいなあ...

そういう曲に『もう一度会えるから』というタイトルが付いているのも、すごく良かったですね。

 

 

★チェロのチューニング

『チェロのチューニング』はトオルのチェロ初披露シーン。ここは、音程について指南するせったクンの言葉を歌にするという演出が大好きでした。とにかく天才感が出てたし、「次は レだ」の「レ」だけ上がる横原くんの歌い方が良すぎましたね。セリフ的な発音だからか、少し巻きの入った「レ」がたまらなかったです。

あと、曲自体のキーが歌詞に連動して低いところから高いところに移行するのも良かった。

余談ですが、帰ってきてせかうつ楽曲を口ずさんでみたら、いちばん音程取れなかったのがこの曲でした。私がそんなに音楽に詳しくないっていうのもあるんですけど、「まだ、まだ、まだ〜」とかどの音を通ってるのか本当に分からなかったです。やっぱりせったクンってすごいや。

トオルの「ドレミファソラスィド ピアノと合わせると」の歌い方と、せったクンの「2オクターブならこんなのも弾ける」の歌い方がうまーく調和して、ちゃんとバトンタッチになってるのも好きでした。たぶんこの2人のパート、間で転調してると思うんですけど、移行に全く違和感がないのが本当にすごい。もちろん、かみむらさんの力も大きいんですが、2人の歌と絆の力でもあるなあと思いました。

 

 

★2人の夢

2回目以降の観劇は、この曲本当にしんどかったですね。のちのちの展開を知っているので。

でも、トオルはそんなこと知らないから、ただただ無邪気に2人の夢を語る。

その姿に、何度も泣きそうになりました。曲終わりにニカって笑う顔が本当にピュアで、それがもうしんどい。これはもうね、一生受け止められないと思いますね…

 

 

★留学/チェロソナタ第五番

トオルのドイツ留学のシーン。このシーンのこと、私は初見からずっと「やさぐれチェロ」と呼んでいます。というのは、留学して音階しか弾かせてもらえないトオルがものすごくやさぐれているから。

舌打ちするし、メッツナー教授の歌(『留学/チェロソナタ第五番』)の最中に口パクで「うっさいな」って言ったりもしちゃう。

「こんなもん辞めてやる!」ってチェロのケースの蓋を閉じるまで、ふつふつと黒い感情を膨れあがらせる椿くんの演技は迫力がすごくて、思わず魅入ってしまいました。

トオルに関しては、ピアノももちろんすごいと思うんですけど、チェロを弾く姿の方が断然好きですね。『チェロのチューニング』で初めてせったクンの家でチェロを弾いた純粋な姿と、『留学/チェロソナタ第五番』で音階しか弾かせてもらえないことにやさぐれていら立っている青年の姿。その対比がお見事でした。その対比とともに、前者の音階は長調、後者の音階は短調になってるのも、すごく良かったです。

 

 

★音楽はやめない 

夢破れて留学から帰ってきたトオルがせったクンと再会するシーン。ここのせったクンって、そのままの受け取り方をすれば、マイペースで話を聞かない人って感じだと思うんです。「大学受験に落ちた、音楽はやめたんだ」とトオルが言っても、「どこの芸大?」とか「私立だあ!」とか言ったりする。でも、『音楽はやめない』の曲があることで、あの態度はせったクンの願望であり、トオルへのメッセージだったということ示唆されていたんだなということ思いました。

トオルとせったクンがお酒を酌み交わすところも好きだったなあ。

「友達がいなかったら、とっくに死んでる」

ひどく大人びた表情でそんなことを言うせったクンに胸がギュッとなったけど、せったクンは別に悲哀の気持ちでそう言ったんじゃない。それはただただ本心だったんですよね。

その"友達"にはもちろん目の前のトオルも含まれていて、「もっと話をしようよ お酒を飲みながらさ」なんて歌が続く。2人の再会が明るいもので、昔と全然変わらぬもので良かったなあとほっこりしました。

それと、本当に細かい話なんですけど、せったクンの「第一小学校だよ」の言い方がとにかく好きでした。たしか、東京→大阪で言い方が「第一小学校だよお!」から「第一小学校だよ!」になってたんだったかな。どっちもちゃんとはやる気持ちが抑えられない感が出てるし、これに関してはほんとに甲乙が付けられないです、未だに。

 

そして、2人で小学校に行くところ。

ピアノを塀に見立ててよじ登るのが青春って感じで良かったです。トオルはぴょんって一発でよじ登れるのに、せったクンは足をかけてじりじりよじ登る。その差も全然昔と変わってなくて良かった。

あと、第一小学校の校歌の話で、「僕も山田耕筰みたいな曲作ってみたいよ」っていうセリフがあるのも、次への伏線になっていて素敵だなと思います。

せったクン、すでにこの時点でオペラを作ることを視野に入れていたんでしょうか。もちろん、ここで思いついたという線もありそうですけど。

10年から13年ベルリン高等音楽学校に留学し、作曲を学ぶ。帰国後15年(大正4)に岩崎主宰の東京フィルハーモニー会内に管弦楽部を組織・指揮(翌年解散)、20年には日本楽劇協会をおこして、日本における交響楽やオペラの確立を目ざした運動を進める。出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)  山田耕筰とは - コトバンク

調べてみてわかったことなんですが、山田耕筰はオペラの確立をめざして動いた作曲家なんだそうです。『堕(お)ちたる天女』、『黒船』など、いくつか有名な作品も残しているとか。

こういう背景を知ると、「山田耕筰は偉大だな〜!」というせったクンのセリフがちゃんと分かるようになって楽しいですね。

 

 

★追憶の16 beat(堂本さん)~ブエノスアイレスの青春

堂本さんの歌う『追憶の16 Beat』は、トオルが私立大学の芸術学部映画学科に合格したという状況説明の役割だったので割愛。

このあたりは、トオルの大学合格を祝うため、せったクンが「うれしい合格」という曲を作るシーンですね。

ブエノスアイレスの青春』は劇中唯一のマスターの曲。

この曲は、コウミの手を取って踊るところと、マスターの歌終わりのアコーディオン?の音がオシャレでかっこいいなと思っていました。

あと、次のシーンにつながるせったクンの「こんなのいけないんだよ!」「こんなの、あと100曲だって作れる。いや、もう作ったかもしれない!」のセリフ回しもすごく好きでした。

この直後の「お父さんが僕にレッスンしちゃいけないって...」のあたりと比べると、喋るスピードがちょっと速いんですよね、ここ。

こういうところの微調整、横原くんすごくうまいんだよなあ。

 

 

★つまらない音楽に付き合う人生

トオルがせったクンを北島先生のもとへ連れていくシーン。

楽譜を取り出して「大学での作曲というのは、具体的にどのようなお勉強をされるのですか?」と言うせったクン、新鮮でした。初対面の目上の人にもちゃんと臆せず話せる。それだけで、大人になったんだな〜ということを改めて実感させられましたね。かしわばのおばあさんにあんなにビビってたのに。

あと、北島先生の歌の裏で楽譜を手直ししてるせったクンがとても微笑ましかったです。夢中で譜面を追いかけているところも、鉛筆の持ち方がグーになってるところも良かった。基本的にはほぼ表情は動かさずに手直ししてるけど、時々、あ!ってひらめいた感じの表情をしたり、曲が盛り上がるところですぅっと息を吸って、のめり込むように力を込めていたりしたのも好きでした。

 

 

★音のチカラ

ここは、エグランティーナに入店してからせったクンの音楽の変化に気づくまでの一連のトオルの動きが丁寧で大好きでした。

せったクンが「うれしい合格」を直したと言って弾き始めたところで、お酒をくいっと飲んで、堂本さんと少し話す。その途中でせったクンが弾いている曲が以前とは全然違うことに気づいて、『音のチカラ』を歌う。

椿くん、あまりにこの流れがうますぎました。まさに「感情(喜怒哀楽)がピークになった時に歌がくる」ですね。

 

 

★オペラを作ろう

みんな大好き『オペラを作ろう』。

ただただせったクンが可愛いし、曲自体の中毒性がすごいので、1回聴くとしばらく曲が脳内を駆け回るようになって辛いです。4回も聴いてしまったし、大阪公演は脳に直接刻みつけるくらいの気持ちで観ていたので、なんなら、「オペラ」って聞くだけでいつでも脳内再生できるようになってしまいました。

この曲のせったクンは全部可愛いので、ピックアップするのが難しいんですが、しいて言うなら、「オペラがいちばんいいと思うのだ」の口調とお顔がとんでもなく好きでした。バカみたいに可愛い。保護です(2回目)。

作曲家の名前を読み上げるところは「ベートーヴェン」の声楽っぽい声、「プッチーニ」の無邪気な声、ひらがな発音っぽい「ラヴェル」が良かったです。

色々言いましたが、とにかくここは可愛いの大渋滞。中毒性の高い曲で後からいくらでも懐古できるシステムにしてくれてるの、本当にありがたいですね。最高に楽しいシーンでした。

 

 

★劇中オペラ『海の怪人セーシュー』

ここは長いので、さらに曲ごとに区切って書きます。◎が曲名です。

 

◎ああ 稲村ヶ崎

上手端でせったクンが指揮、その他の場所を使ってオペラを上演。登場人物紹介も兼ねて、トオル扮するサダオとコウミ扮するヨシコが同じメロディで歌います。

10/29昼公演の時はあんまり思わなかったので、もしかしたら途中から動きが変わったのかもしれないんですが、11/5昼のせったクン、私情がすごかったですね(笑) なんなら大阪はもっとすごかった(笑)

サダオもヨシコもせったクンのすぐ近くで歌うんですけど、ヨシコのパートの時のせったクン、舞台に吸い寄せられるように歩いていっちゃって、あせあせしながら戻ってきてまた指揮してましたね。これは確実に練習中に愛を育んだね…バレバレだよ…

 

◎義貞の十戒

全体的にチェンバロっぽい音が響いている曲なイメージ。サダオがヨシコに新田義貞の伝説の話を伝えるシーンですが、トオルのダンスがあまりにエモすぎてずっと鳥肌立ちっぱなしでした。

特に、「ああ神よ願わくば〜」で手を合わせて膝をつく振りと、「真一文字に〜」で手を水平に保ちながらもう片方の手でまっすぐに狙いを定めるような振りが上手すぎましたね。言葉じゃ上手く伝わらないのが悔しい…

椿くんのコンテンポラリーダンス、もっとたくさん観たいなあと思いました。椿くんのスキルの高さ、ほんとどうなってんの…

 

◎儚い記憶

この曲は、とにかくせったクンの指揮が美しかった記憶。

正直、ここは最初の方、「ま〜たせったクン、ニヤニヤしてるんでしょ?コウミちゃん大好きだもんね?」って思ってたんですよ、私(とても失礼)。でも、双眼鏡で観てみたら、全然そんなんじゃありませんでした。

暖色のピンスポを浴びながら、2拍3連を指揮で刻むせったクンの美しさたるや…

全く笑わず、曲にのめるかのように真っ直ぐな目線で指揮をするせったクンが刻む3拍子、本当に美しかったです。指揮を見てここまで美しいって感じたの、たぶんこれが初めてだし、なんならもう二度とないかもしれない…そんな風にも思えました。

せったクンもとい横原くんの指揮って、音感いい人のリズムの取り方な感じがして好きなんですよね…

音楽的な善し悪しはよく分からないけど、どのテンポにおいても、1拍目を丁寧に置いてから2拍目、3拍目をなめらかに繋いでいくのがツボでした。

あと、拍子やテンポが変わる時の指揮も良かったです。転換点を作らずぬるぬる変わっていくのがお見事。特に、ゆっくりなテンポから速いテンポに移行する時の指揮は一生拗らせそうな気しかしてないです。好き〜〜!!

 

◎おつり事件 パート2

原田さん扮するパワフルおばあちゃん再登場。

飲み物は口付けてからお客さんに渡すし、おつりは全部50円玉だし、トオルの申告によると不足額も多いらしいので、かしわばのおばあさんより明らかに悪質度が高い(笑)

このシーンで『もう一度会えるから』の歌の通り、かしわばのおばあさんにもう一度会えてしまっているのがちょっと面白かったです。

絶対にそういうことじゃないんだけど、笑っちゃうよね、これは。

でも、オペラのなかに、かしわばのおばあさんを入れよう!ってトオルとせったクンが話してたんだとしたら可愛いですよね。『おつり事件』も、2人にとって大切な思い出であるはずなので。

 

◎出でよ!セーシュー・ドン・ジョバンニ~この太刀をお取りなさい~セーシューよ海へ帰れ

マスター扮するセーシューが出てくるところ、雷みたいな演出になってたと思うんですけど、そのあたりからキョロキョロしたり、指揮の合間に頑張れ〜ってしながら舞台を見守るようになったりするせったクンが可愛かったです。

舞台に魅入ったあと、楽譜をめくって指揮に戻るところは、慌ててめくるんじゃなく、楽譜をサラーっと読みながらページを繰る感じが良かった。ここは「せったクン」から「指揮者・雪駄文彦」のスイッチングでもあると思うので、一瞬の切り替えじゃなく、徐々に後者の出力を上げるようになめらかに変えてくれたことで、せからしさを感じずに楽しめたなと思います。

ピアノは、口ずさみながら弾いてるのが良かったです。トオルの書いた詞を噛み締めるように嬉しそうな顔で演奏するせったクン、ほっこりしました。

オペラ本編の方については、とにかくトオルの殺陣とアクションが上手すぎました。海の家での上演なんて勿体なさすぎる!もっとちゃんとお金取った方がいいよ!って言いたくなるレベル。

初めにセーシューと対峙するところは、刀を持ってないので拳で勝負なんですけど、少年漫画のパワー系主人公みたいで、かっこよかったです。刀を手に入れてからは、殺陣の基礎がしっかりできている椿くんがベースにあるので、冷たい視線で刀を振るうのがあまりに様になりすぎていて、ちょっとドキドキしましたね。あれは全人類恋する。

椿くんって重心移動の仕方がすごく上手いのかな。個人的に、舞台でとても映える動き方だなと思いながら観ていました。

あと、ここは観るたびセーシューが自由になっていくのが面白かった。東京から大阪でけっこう捌け方変わったよね。

元も子もない言い方しちゃうと、サダオは新田義貞、ヨシコはその妻の生まれ変わりで、今世でも結ばれちゃったね♡っていうオチなんですよ、これ。それを「それじゃあ僕は、新田義貞…?」「私は貴方の…?」っていうセリフでもって表現してるんですけど、大阪のセーシューはなかなか捌けずにそれを見守ってました、なぜか(笑)

サダオとヨシコのセリフに合わせて、「そうです、そうです」みたいに頷いて、しかも最後に「さらばじゃあ!」みたいな決めゼリフで捌けていく。

これ全部、東京はなかったと思うんだけどなあ(笑)マスターがどんどん可愛くなってるの、本当に楽しかったです。

 

 

 

★世界でいちばん美しい

せったクンがコウミと結ばれるまでのシーン。

甘酸っぱいような、苦しいようなで、恋というよりはロマンスという表現の方がしっくり来る気がしますね、このあたりは。

まず、せったクンがトオルにコウミが好きだということを打ち明け、「今日も暑いですね」「そうですね」ってコウミとの会話を再現するところ。トオルに恥ずかしそうに話すせったクンの声、少し甘めのトーンで良かったです(11/5昼は特にその要素が強かった気がする)。

なんか、トオルが言っていた「聴いてるのは耳なのに鼻をつまみたくなる甘さだよ!」ってこういう感じだったのかなと思ったり(このセリフ、すごく早口でまくし立ててたよねトオル…この言い方とても好きでした…)。曲ではなくセリフでこちら側が追体験しているような、そんな感覚が少しありました。

そして、せったクンがコウミを連れ出すところで流れる「シラノ・ド・ベルジュラック」。ここで流れるのが今までいちばん壮大で、ゆっくりで。すうっと夜に溶け込むような曲調になっていたのが印象的でした。

この壮大な曲調が「これじゃあまるで、シラノ・ド・ベルジュラックだな」というマスターの言葉から続いているのもすごく良かった。

このあとの、「僕達はそういう運命なんですよ」っていうトオルのセリフももすごく良い。私はこれでようやく解釈を1つに絞ることができたので、グッジョブ!と思いました。このひと言、本当にありがたかった…!

シラノ・ド・ベルジュラック」の解釈は、こうめいさんが濁してツイートされていた通り、「トオルもコウミが好きだったけど、せったクンとコウミが両想いだと知ってキューピッドとなることを選んだ」という解釈でいいはず。

解釈が分かれるのは、どちらかと言うと、先述の沢口さんについてかなと思います。

もしもあの時、せったクンも沢口さんのことが好きだったのだとしたら、トオルに「沢口さんのこと好きだったじゃんか」と言ったせったクンはシラノで、コウミと結ばれるせったクンはクリスチャンということになる。

劇中で描かれていないから本当のところは分からないですが、音楽の才に恵まれたせったクンがどちらの立場も経験しているというのも、ドラマティックでいいなと思っていたりします、私は。

そして、このブロックの最後として、せったクンとコウミが結ばれるシーンについても言及しておきますね。ここは私も含め、キスシーンだなんだって散々オタクがざわついた部分でもありますが(笑)、私はこれ以上ないほど解釈一致だなと思っていました。セリフも含めて。

ミュージカル化が決まってから原作を読んだんですけど、さすがに舞台だし、2時間弱だし、原作のような展開ではないだろうなとは思ってたんですよ、もともと。でも、ここはトオルと沢口さんの初恋と対比の関係であって欲しかったから、子どもの恋と大人の恋愛という感じで、できるだけ区別して描いてくれたらいいなと思っていました。

そう思っていたところにあのやり取り。情欲を伴う恋愛のさまが美しく描かれていて、こういう区別の仕方いいな〜!って思いました。

そもそもが自担のラブシーンもっとやれ派の人間だから、こういうこと言えるのかもしれないけどね。

いやあでも、ほんとにせったクンとコウミのやりとりは甘酸っぱくて、切なくて、しっかり引き込まれてしまいました。

このシーンが甘酸っぱく、切なくなればなるほど、せったクンの人間的な美しさが際立つと思っているので、まさに解釈一致。

幕間があるとすれば区切りはここだったのかな?と勝手に思っているんですけど、もしそうだとするならば、すごく素敵な余韻の残り方だなと思います。今でもこのシーン、私は大好きです。

 

 

★作品第一番 音楽の旅人

コウミがせったクンの家に出入りしていることがせったクンのお父さんにバレてしまい、せったクンの楽譜が全て燃やされてしまう。

それに対し、「僕はお父さんを騙してました。だから、楽譜が燃えてしまったのは良かったです」というせったクンって本当にピュアなんだなあと再認識しました。

その前の「僕も永沢さんも大丈夫です」はコウミと自分に言い聞かせるような感じもあったのかな。

そして、この時点で一度まっさらになったせったクンが作ったのが『音楽の旅人』という事実が、とてもしんどかったです。

この曲がレクイエムのベースとなっていることを考えると、「作品第一番」というタイトルがすごく憎く思えてしまいますね。まさか「生まれ変わって最初に作った曲」が「レクイエム」になっちゃうなんて、この時誰が想像できたことか。

歌の面では、「それが僕の願いだ」のせったクンの声が、横原くんからは聴いたことのない声でびっくりしました。

横原くんって実は、普段あんまり裏声使わないよね?日頃の高いキーはミックスボイスみたいな感じなのかな。「それが」と「願いだ」の分かりやすい裏声を聴いてそんなことを考えたりしていました。

あと、大阪は会場が響きやすい環境だった(ように聞こえたんだけど実際はどうかよくわからないです)からか、声量が東京以上にすごかった。歌い方もちょっと変わってたかな?なんか、よりクラシック寄りの歌い方になっていたように思います。

 

 

★ジェラシー/終末のタンゴ

せったクンがタンゴに触れ始めると同時に、津々見がエグランティーナを訪れるようになるシーン。

津々見の登場により少しずつ歯車が狂っていく様子が、タンゴの短調に乗せられているのが良かったです。

せったクンとの連弾でコウミがリズムを取れず、チューナーを買いに行くところは、「桜木町まで買いに行っちまったよ!バカ!」「バカって言わないの!」のマスターとコウミのやりとりが毎回かわいくて好きでした。 

帰ってきたあと、家で学生時代に使ってたをチューナー少しいじって思ったことなんですけど、チューナーのチューニングの音ってC(ツェー)から上がっていく仕様になってるよね?

せったクンがチューナーの音鳴らしちゃって焦るところがA(アー)になってたのってもしかして、「わー!」とか「あー!」とか言うみんなの声と微妙にかけたりしてたのかな…? 考えすぎか(笑)

せったクンと津々見が初めて接触するところは、なんか妙な緊張感がありましたね。スコッチのソーダ割を頼んでから「グレンフィディック」と銘柄指定する津々見、ものっすごくイヤな奴だったし。

「グレン…?」って聞き返すせったクンの消え入りそうな声、かわいかったな。グレンフィディックかどうかは分からないけど、態度の悪い客にもちゃんとお酒作っててえらいよ、せったクン。

津々見にお酒を出してすぐ、せったクンが「ピアノ弾いてもいいですか?」って聞いたのは、津々見からトゲトゲした何かを感じたからなのかな。柔らかな口調のなかに、早くこの場から離れたいみたいなそわそわ感があったようにも感じられました。

津々見ってよくよく考えたら、たった3回しかエグランティーナに来てないんですよね。3回目は来るなり全てをぶち壊すから、本当にお客さんだったのは実質2回か。

そんな津々見の2回目の来店シーンでは、多くの人を恋に落とした「俺が何とかしてやろうか?」なトオルがいましたね。コウミの「大丈夫、私は相手にしてないから」の後の「でも、あの目つきはいい感じがしないな」も相当にリアコなトーンで大好きでした。

トオル、あまりにいい男に育ちすぎでしょ…

 

そして、特筆すべきは、運命の津々見3回目の来店シーン。

タンゴを完成させたせったクンの発表会のシーンでもあります。

ここは1番原作と大きく変わっていたシーンだったので、正直、1回目の観劇ではとても戸惑いました。

でも、2回目以降の観劇では全然違和感なかったです。むしろ、原作よりも津々見へのフォーカスが少なく、その分トオルとせったクンのエピソードを多く盛り込んできたこれまでの流れを考えると、こっちの方がかえってすっきりして見えるなと思ったり。

冒頭の、津々見が歌う『追憶の16 beat』の部分でも触れましたが、そもそもエグランティーナの面々からすれば、津々見がどんな感情で凶行に走ったのであれ、「突然全てを壊された」という認識は変わらないんですよね。そう思うと、この改変は大いに納得でした。

 

曲自体は、津々見の『ジェラシー』とせったクンの『終末のタンゴ』が応酬する形式。

声も歌詞もナイフみたいに尖った津々見と、その場に不似合いなくらい優しく諭すように歌うせったクン。全然違う歌がしっかりと混ざり合ってひとつのシーンが作られていて、思わず息をするのを忘れるくらい魅入ってしまいました。

 

『終末のタンゴ』は歌詞だけ見ればほぼ『音楽の旅人』そのまま。でも、そこにタンゴ調のアレンジと「僕を殺すことは誰にもできないよ」の歌詞が加わって、よりせったクンの言葉が力強く、真っ直ぐ響くようになる。それがとても苦しかったです。

ここの歌い方、本当に良かったなあ。

「僕は音楽の旅人だ」のところで、「おん」で音が跳ねる→「がくの」で少しデクレッシェンド→「旅人だ」でクレッシェンドっていう流れを踏むのが好きだった。あと、「僕を殺すことは誰にもできないよ」の「でーきーないよ〜」の音の切り。

このあたりはたぶん横原くんの得意なキーだと思うので、存分に中の人の良さが出てたと思います。  

津々見の敵意や殺意を真っ向から受け止めながらあの曲を歌い、恋人に「大丈夫」と語りかけるせったクンがどんな顔をしていたのか、それを知っているのはたぶんコウミだけ。私たちにはこの時の表情は見せてくれませんでした。

でも、だからこそ私たちは、せったクンの全然大丈夫じゃない「大丈夫」を、より現実味を帯びた形で受け取ることができたんじゃないかなと思います。

この時のせったクンの表情、知りたいとは思うけど、知らないままでいたいような気もするんですよね。

 

そして、せったクンがピアノへ向かい、最期を迎えるところ。
「いい曲が書けそうな気がするんだ」

「16分音符が舞い上がっていく感じだ!」

「今のは綺麗だったねえ〜!」

「みんなにもすぐに見せてあげるからね」

セリフはだいぶニュアンスですが、そう言いながら、ピアノを目指して歩を進めるせったクンの目がずっとキラキラしていたのが印象的です。

ここのせったクン、ゆっくりながらも絶対に喋ることをやめないし、『音楽の旅人』の歌詞(どこからともなくメロディーが舞い降りて僕を包み込む)と正反対の"16分音符が舞い上がる"景色を見ているんですよね。

劇中で『追憶の16 beat』をせったクンは歌わないので、16分音符はある意味「生」の象徴。そして、それが離れていきそうなのをどうにか繋ぎ止めたくて、あの時の彼は、見ている景色を詳細に言葉にし、ピアノを弾こうとしていたのかなと思いました。

実はここ、東京では1回も双眼鏡を通して表情を見ようとしたことはなかったんです、私。フィクションなのは分かってるけど、やっぱり辛くて。

でも、大阪では意を決して双眼鏡を覗き込むことにしました。

そうしたら、あんなに明るい声をしてるのに、今にも泣きそうな表情をしたせったクンがそこにいて、バカみたいに泣いてしまいました。

もっと早くこの演技、目に焼き付けておきたかった。そう思いながらも、綺麗にパズルがはまったみたいな、すごく満たされた気持ちになったことを覚えています。

そして、このシーンの最後に来るのが、津々見の不気味な笑い声とサイレンの音が混ざり合う、聴いているだけで情緒がイカれそうな演出。

せったクンの最期と津々見の狂人としての始まりが同時やってくるという形で、最後までこの2人の応酬が続いているというのが妙にリアルで、「16分音符が鳴り止まない」という感覚ってこういう感じなのかなとも思いました。

 

 

★レクイエム 世界でいちばん美しい

せったクンのお葬式のシーン。

せったクンの命日(1/31)はシューベルトの誕生日であったこと、せったクンのイニシャルがF.Sでフランツ・シューベルトと同じであること、シューベルトの「シュー」は「靴職人」、せったクンのせったは「雪駄」であり履物という共通点があること。

これらのことから、作中のせったクンのモデルがシューベルトであったことが明らかになりました。

調べてみたら、これ以外にも、せったクンとシューベルトにはたくさんの共通点があって、せったクンがピアノの才能を発揮し始めた小学2年生(7歳か8歳)、亡くなった30~31歳という歳に、シューベルトもまた同じ運命をたどっていたようです。

「せったクンは天才音楽家だった」

そういう色々を全部知っていながら、トオルはこの言葉を発したのかもしれないと思うと、とても苦しいですよね。

そんなこととはつゆ知らず。

「へえ~そうなの?僕は、僕が美しいと思う音楽を作り続けるだけさ。」

そう言って光を浴びながら歩いてくるせったクンの声、儚く澄んでいて大好きでした。

ここで歌う『音楽の旅人』、本当にずるかったよね。

あんなにキラキラした声で、「僕を殺すことは誰にもできないよ」なんてトオルだけを見つめて歌われたら泣かないわけないじゃん。

ここだけ生前に歌ったものとは違う、受け渡すような音運びになっているのもずるかったです。「僕を殺すことは 誰にもできないよ」のところ。

しかも、せったクンがそうやってトオルに渡したバトンを、トオルは『2人の夢』で受けるんですよね。

「そして僕らは演奏会を開く ピアノとチェロを2人で それが僕たち2人の夢」

もう二度と叶わない願いを、ぐっしゃぐしゃに泣きながら歌うトオルを見て、心の底から彼の幸せを願わずにはいられませんでした。

ここのトオルとせったクンの関係性、すごく良かったなあ。

トオルにはせったクンの姿も見えるし声も聞こえているけど、触れることはできない。

だから、『音楽の旅人』を歌ったせったクンから歌のバトンを受け継ぐ時、触れようとしても触れられなくて、伸ばした手が空を切る。

それだけだと切ないままトオルの一方通行で終わってしまうけど、せったクンがちゃんと動きでそれに応えてくれるのが救いになっていて良かった。

トオルの『2人の夢』の時のせったクン、ゆっくりピアノの周りを回っているんですけど、ピアノを優しい、でもすごく寂しそうな眼差しで見つめてすっと指先で1回なぜるんですよ。

きっとこの時のせったクンは、トオルとピアノを弾いた日々を、音楽を作った日々を思い出していたんでしょうね。

いつかの公演の、カーテンコールの横原くんの挨拶での言葉を思い出すようなその動きに、触れることはできなくても、2人の心はちゃんと繋がっているんだなということを感じることができて、嬉しかったです。

 

そして、トオルが歌う『追憶の16 beat』。

劇中でこれまで幾度となく歌われてきた曲ですが、トオルが歌うのはこれが最初で最後。今までのどの『追憶の16 beat』よりも優しく、沁み入るような曲になっていて、じんとした温かさがありました。

「僕を殺すことは誰にもできない」というせったクンの言葉を証明するかのように、トオルが「君を殺すことは誰にもできないよ」と歌い上げてくれたのがとても良かったです。

あと、ラストに残るピアノだけのメロディーが『音楽はやめない』の「もっと話をしようよ お酒を飲みながらさ」をなぞらえていたのがほんとにしんどかった…

ピアノ動かしながら2人で輪唱してた時、トオルのメロディー追っかけてたじゃんせったクン…!なんで先にいっちゃうの!!

「小学生の頃の話も全部」の歌詞まで行き着かないのもまた切なかったですね。

『音楽はやめない』のところでは、見つめあって「全部」ってユニゾンするのに、もうそれが叶わないんだなあ。

そんなことを思いながら、毎度新鮮に涙していました。

 

 

★カーテンコール

ここはもう横原くんもせったクンではないので(?)、私もオタク丸出しでいきますね。

白のせったクン、めーっちゃ可愛いかった!!

立ち位置に着いてすぐじぃーっと客席を端から見ていく時の優しい顔、たまらんかったですよね。なんでかいつもよりきゅるるーんってして見えた。肌綺麗すぎるしほんとに赤子。

くりんくりんの髪の毛、毎度自分で巻いてるのもかわいいよね…上演中も崩れないほどのパーマ、自力でできるのすごくない?

はい。ちょっと荒ぶりすぎたので、最後はまじめに歌の話でもしましょうかね。

せったクンを解いた横原くんの「会いたいよ〜君に会いた〜いよ〜」はシンプルに「横原くんだ!」ってなる声で、なんかちょっとホームに帰ってきたような安心感がありました。

大阪は特に横原くんみ強かったですね。観るたび違うアレンジが加えられていて、この部分だけ、公演ごとに横原くんの要素が色濃くなっていくのが好きでした。

横原くんの声が大好きなオタクなので、個人的には、このワンフレーズだけでものすごい量の幸せを摂取させてもらったような気がします。ありがとう世界〜!幸せ〜!!

 

 

さて、ここまで綴ってきた感想レポもいよいよ終盤です。

椿くんと横原くんを生で観たのも、舞台を観に大阪まで遠征したのも、同担さんと現場終わりに飲んだのも(笑)。全部全部、せかうつが初めてでした。

そんな色々な初めてとともに駆け抜けたあの日々は、私にとって、一生忘れられない宝物です。

こんな素敵な作品に出会ってしまったら、「会いたいよ君に会いたいよ」なんて、10年経ってもまだ言ってそうですよ、私。

なんなら孫の代まで延々語り継ごうとしそうな気さえしてます。(重い)

それでも、いつまでも余韻にばかり浸っているわけにもいかないので、思い出は一度、ここで宝箱にしまうとしましょう。

 

 

というわけで、『世界でいちばん美しい~鎌倉物語~』、改めまして全19公演お疲れさまでした。

そして、椿くん、横原くん。ダブル主演ミュージカル本当にお疲れさまでした。

いつかまたあの双子のような2人に、2人を取り巻くみんなに会えることを信じて。

このエントリの締めくくりとさせていただきたいと思います。

 

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!以上!